「これって労働時間ですか?」に理路整然と答えるための知識【労働時間について社労士が解説】

こんにちは、現役上場企業人事/社会保険労務士 助太刀屋のりょうたです。

昨今では働き方改革というフレーズも徐々に浸透してきており、以前に比べると「労働時間」というものへの意識は労使双方で日々増してきているのではないでしょうか。

もちろん仕事をするうえで明確に時間管理をして、効率性や生産性をあげることは今も昔も非常に重要なことであると思っております。その一方、会社の中で「労働時間」という意識が強くなりすぎた結果、色々な認識相違や誤解なども出ているのではないかと思います。

例えば、よくあるお話ですが、何かの仕事を終えた後にその流れでちょっと一杯付き合うようにお願いしたときにZ世代の若手社員から「もう定時終わっていますよね、これって残業代つきますか」などと言われたことありませんか?(昭和や平成初期世代の方からしたら、何を言うのだ!?というレベルかもしれないですが・・・)

また、いつかのTVドラマで見た家政婦のように、少し仕事と関係性が薄い依頼をしたときに「これは業務命令でしょうか?」などと言われたことありませんか?

ちょっとした付き合いの飲み会、出張中の時間の取り扱い、通勤時間と労働時間の違いなど改めて整理しておくべき内容も多々あると思います。

実生活においては、100%業務に関係があるかどうか非常に曖昧な部分も付きまといますし、管理職の方からも「これって労働時間になりますか」など質問をいただくケースも多々ありますので、今回はそのような実務的な側面から「労働時間」の概念や明確な線引きの可否などを見ていきたいと思います。

この記事はこんな人にオススメです!
・労働時間の概念を正しく理解したい
・従業員や部下とのコミュニケーションで無用なトラブルを避けたい
・チーム全員で気持ちよく仕事がしたい

労働時間の概念

先に「労働時間」という概念に少し触れておきたいと思いますので、よく日常生活で使われている言葉から解説をしていきます。会社の労働条件の中でよく見かけると思いますが「9時~18時(休憩12~13時の60分休憩)」という原則的なルールの場合、下記のような意味合いになります。

所定就業時間

就業規則や雇用契約書などにおいて規定された始業から終業までの時間をいいます。今回の場合であれば、9時~18時という9時間という形になります。なお、一般的には「就業時間」「拘束時間」などと言い換えられる場合もあります。

所定労働時間

上記の所定就業時間(拘束時間)から休憩時間を差し引いた時間をいいます。 休憩時間が60分であるため、所定就業時間(拘束時間)から60分を引いた8時間が所定労働時間となります。 

実労働時間

所定労働時間と基本的には同義になりますが、実際に勤務した時間をいいます。仮に朝1時間遅刻して10-18時まで勤務した場合は、実労働時間は7時間となります。賃金計算などはこの実労働時間をもとに進めることとなりますが遅刻、早退、欠勤などイレギュラーな事態がない場合は、所定労働時間と実労働時間は同じになります。

法定労働時間

労働基準法により1週間の上限を40時間、1日の上限を8時間と定めた最長労働時間をいいます。こちらは原則的なルールであり、変形労働時間制などを適用した場合はこの限りではありません。

今回の場合は9-18時という運用のため「法定労働時間=所定労働時間」という図式になりますが、会社によっては「法定労働時間>所定労働時間」という場合もありますので、あくまでも会社ごとに決定されるものとなります。

同じ「労働時間」という響きでも厳密には異なりますので、一度整理をしておくとよいでしょう。

そして気を付けておきたいのが労働法上でいう「労働時間」とは「労働者が使用者(会社)の指揮命令下に置かれている時間」を指します。昨今の判例等でも、就業時間外に行う準備作業なども会社から義務付けられている場合には労働時間と見られる可能性があるため注意が必要です。運用上すべて白黒付けることは難しいですが、極力曖昧にならないよう一定の管理は必要となります。

さて「労働時間」の概念的なものはこれくらいにしておき、この後は実務的な面でよく迷われるケースを見ていきます。

通勤・出張・就業時の移動時間について

実務上、よく迷われる内容として移動時間等に関するものがあります。普段当たり前に感じているものも改めて労働時間の概念と絡めて見直しておきましょう。

自宅から会社の移動(通勤時間)

いわゆる通勤時間に該当するものですが、こちらは日常生活で特に意識もしていなくても大きな問題にはならない部類だと思います。

一般的に、従業員自身の自宅から会社が指定する場所へ向かう行為(=通勤)は、従業員が労務提供を行うための準備行為であるため「労働時間」とはなりません。これは先述した会社の指揮命令下には置かれていないという前提にたつものであり、また通勤時間の経路やその長さも影響はしないことになります。また、営業マンの方が取引先に朝直行します。という場合や取引先から直帰します。という場合も同様になります。

ただし、取引先へ行く前に会社に立ち寄って移動する、また必要資料を取るために事業所を経由する場合などは、その現場から取引先へ移動する時間も労働時間となりえるため注意が必要です。

仕事はその場所で行っていないから、すべて通勤時間の延長などという解釈は基本的に認められないと考えておきましょう。

出張時の移動

頻度は様々ですが、会社勤めをしていると出てくるのが出張です。この出張時の移動時間等についても、原則としては通常の出勤に費やす時間と同一であると考えられるため、通勤時間と同様に「労働時間」にはあたらないこととなります。

実務上よくあるのが、月曜朝一に北海道で会議があるため、いわゆる前入りを日曜にして移動する場合などがありますが、これも通勤時間と同様の扱いとなります。

ただし、出張の目的が物品等の運搬や保守、監視など移動そのものに業務性があると認められる場合は、その移動時間も労働時間となりえるため、注意が必要です。出張だから通勤時間とすべて同じというものではなく、その性質(中身)は一定程度見られるためこれを機に整理しておきましょう。

事業所間の移動/取引先等への移動

業務時間中に取引先へ訪問をしたりすることは、通勤時間や出張と異なり既にその日の労務提供が開始された後であるため、準備行為というものではなく「労働時間」と考えられています。

参考レベルですが、訪問介護事業等における行政通達においても、事業所間や利用者間の移動時間は業務に従事するために必要なものと解されており、また当該時間の利用における自由が保障されていない場合には、労働時間に該当する見解を出していることからも、特段の理由等がない場合は「労働時間」となる可能性がかなり高いと推察されます。

会社の飲み会・接待

よくある社内の懇親会や飲み会、接待などですが、こちらも「労働時間」がどうか迷われる部分は幾分あると思います。「労働時間」の概念をもとに考えれば、原則として懇親会や顧客への接待であっても自由参加となっている場合は、その参加した時間について労働時間にはなりません。

会社の懇親会や宴会といえども、あくまでも懇親や飲食が目的となるため、業務という観点からすれば、その関連性は全くない、あるいは著しく希薄なため労働時間となることはかなり低いと考えられます。

一方で取引先や顧客との接待等については、原則として社内の懇親会や飲み会と同様と考えられますが、重要顧客・取引先の役員などが参加するものは、一定の業務性を帯びる可能性もあり、商談の話なども想定される場合があるため、通常の接待とは異なり慎重に業務性を判断することとなるでしょう。

「飲み会≠労働時間」という図式ではなく、あくまでもその内容や実態に基づいて適切に判断していく方が賢明と思いますし、秘書のような役割を担っている方の場合は、常に業務性を帯びるため注意が必要となります。

健康診断

会社で働いている方であれば馴染み深い健康診断やインフルエンザなどの予防接種だと思いますが、こちらについても労働時間の概念という側面から見ていきたいと思います。

まず、健康診断は「一般健康診断」と「特殊健康診断」というものに区分され、労働安全衛生法において、実施することを事業者に義務付けているものです。(安衛法66条1項、2項および3項)

「一般健康診断」は会社で働いたことがある方であれば大半が受診しているもので身長、体重、視力、聴力、採血などの項目があります。多くの方がなんとなく出勤前に医療機関に立ち寄って診断を受けているため、あまり労働時間に該当するか否かを考えることも少ないと思いますが、「一般健康診断」は事業者に実施義務を課しているものの、業務遂行との関連において実施されるものではないため、必ずしも労働時間として扱うべきものではありません。

現実的には労働時間として賃金控除などせずに対応している会社の方が多い感覚を受けますが、労働時間に必ずなるものではないことを抑えておきましょう。

一方「特殊健康診断」については、有機溶剤を扱う業務や特定化学物質を扱う業務に従事する者を対象としているものです。かなり限定的にはなりますが、事業遂行をするうえで実施されなければならないものであり、所定労働時間内に実施されるのが原則と通達にもあることから、労働時間と扱うべきものとなります。

同じ健康診断であっても、労働時間の概念は異なることも抑えておきたいポイントです。なお、インフルエンザ予防接種やコロナワクチン接種などについても事業者に実施義務が課されているものではないため、一般健康診断と同様の解釈(労働時間にしなくもよいもの)になることも補足しておきます。

さいごに

今回は労働時間の概念そのものについて、現実的な例をもとに解説をさせていただきました。

昨今の風潮から、業務にかかわるものは1分単位で打刻をさせているなど、多くの企業では労働時間管理について非常に慎重になっているように思われます。後々未払賃金に繋がりかねない要素も孕んでいるため法令を遵守しておくことに越したことはないでしょう。

どうしても、労働者側の目線に偏り過ぎて「何か言われたらどうしよう・・・」と臆してしまうこともあると思いますが、ちょっとした小休憩やタバコ時間、息抜き程度の雑談なども実際に社内では存在しています。実務的なお話ではありますが、あまりガチガチに管理され、また管理しすぎるとかえって働きづらさが露呈してしまうかもしれません。

双方がいい感じの距離感で「このくらいは仕方ないよね」と思える職場が結果的には過ごしやすいのだと思います。

終業後、先輩社員から「ちょっと一杯付き合って」などという「飲ミュニケーション」など随分減ったように思いますが、このご時世になると「業務命令ですか?」「残業代付けていいですか?」「私生活への干渉ですか?」などの返しがきたりするようですね。

何をするにも「これは労働時間ですか?」など言われた日には管理者側としてもいい気持ちはしないでしょう。法律を適切に理解し、遵守することはもちろん重要なことに変わりはないのですが、働くうえでは双方の妥協点も考えて社会生活を営んで欲しいものですね。

労働者の権利保護が強い風潮ではありますが、あまり一方的に行動しすぎて「今の時間、休憩時間と見ていいよね?」などと管理者から突っ込まれない程度に双方で多少の遊び心も持っておきたいです。

偉人の言葉を借りるとすれば「だって人間だもの・・・」という感じでしょうか。

▼参考(特殊健康診断内容)

関連記事

最近の記事

  1. 休憩時間は必須!休憩の正しい運用ルールを社労士が解説!

  2. 副業禁止・制限・中止はできるのか!?社労士監修の副業運用マニュアル

  3. 社員が自己破産していたら?採用する前に身分証明書をもらおう

お役立ち資料

  1. HRハッカーお客様の声事例集

  2. 無料で採用に使えるツール30選

  3. 桃太郎から学ぶ日本一わかりやすい採用マーケティング