出向と転籍の違いや運用時の注意点を社労士が解説【正しく理解して適切な運用を】

こんにちは、現役上場企業人事/社会保険労務士 助太刀屋のりょうたです。

突然ですが、記事をご覧になっている皆さまは・・・

「来月から子会社の株式会社●●に出向だよ!」

などと言われたら「もしかして左遷・・」のように思うこともあるのではないでしょうか。反対に「お、ついにチャンスが回ってきたぞ、絶対成果をあげて親会社に戻ってやる」となりますか?

ビジネスパーソンにつきものの「出向」や「転籍」については、一度や二度くらいは耳にしたことがあると思います。そんな「出向」「転籍」という言葉には、なんとなくマイナスイメージもついて回るような感覚があるのではないでしょうか。

実際のところ正しく理解していないと、労使双方で認識の相違が起きて労働条件面で不利益となっていた……などの事態が発生しているかもしれません。

日曜ドラマ「半●直樹」の影響などもあり、金融機関にお勤めの方などには身近な問題となっている部分があるようですが、実際のところはそこまでネガティブな印象はないと個人的には思っております。

大きな会社などでは業績不振による会社のテコ入れや新たに買収した会社の立ち上げなどでも「出向」は使われるため、幹部候補が送られることも多々あり、出世コースに近づく手段でもあるでしょう。

ただし、この「出向」「転籍」については、労働条件などにも影響を与えるイベントで、労務管理をするうえでも、通常の雇用形態とは少し異なるため「出向」「転籍」は適切に理解をしておくべきものです。

管理する側も対象となる側もどちらにも影響を及ぼすものですので、改めて整理をしていきたいと思います。

この記事はこんな人にオススメです!
・出向や転籍の違いについて正しく理解したい
・出向や転籍を活用する際の注意点を知っておきたい

「出向」は一時的な移籍で「転籍」は完全な移籍

「出向」「転籍」など硬い文字だけ並べるとなんだか難しそうな話になるのか?と感じてしまうので身近な例で考えてみましょう。

サッカーが好きな方であれば、想像しやすいと思いますが「出向」はいわゆる「レンタル移籍」に該当するもので「転籍」は「完全移籍」に該当するものと考えていただければ早いと思います。

レンタル移籍
(出向)
Aクラブが選手の保有権を有しつつ、Bクラブへ一定期間レンタル(出向)させる。
(最終的な選手の保有権はAクラブにある)
完全移籍
(転籍)
AクラブからBクラブへ保有権を完全に移行(転籍)させる。
(最終的な選手の保有権はBクラブに移る)

ヨーロッパサッカーのビッグクラブでは日常茶飯事に行われているもので、有能な若手人材を一旦囲い込んでおきつつ、当面は活躍の場やポジションがないため、中小クラブにレンタル移籍(出向)をさせ、経験を積ませてから機を見て元に戻すというものです。

もちろん、レンタル先(出向先)でパフォーマンスを得られない場合は、さらに他のクラブへレンタルまたは売却など厳しい世界でもあります。逆にレンタル先でハイパフォーマーとなっている場合は、そのまま移籍金を元のクラブに支払い完全移籍(転籍)もあり得ます。

なんとなくイメージできましたでしょうか?

話を元に戻しますと「出向」「転籍」については、上記サッカーにおける選手の保有権とほぼ同じ概念となりますが、それぞれの意味合いや労務管理上で注意すべき点は異なりますので、大事な論点を整理しながら見ていきたいと思います。

「出向」とは何か?より詳しく解説

「出向」「在籍出向」などと一般的には言われていますが、従業員が出向元の企業との間で雇用契約を維持したまま出向先の企業において一定期間、出向先の業務に従事することを指し、法的な関係としては、出向中の労働者は出向元と出向先の双方と労働契約関係が成立しているものとなります。

出向命令については、会社の就業規則や各種労働条件等にその内容が明確になっていることを前提として行われます。従業員側も原則として、そのような規程や命令には正当な理由なく拒むことはできないような形となっているため、改めて就業規則の内容は確認しておくとよいでしょう。

基本的に出向者は、出向先の労働条件などに則して勤務をすることとなりますが、多少の労働条件の差異なども現実的には出てくるため、出向手当などで一時的に補填をすることも1つの対応策となります。

会社側も出向したことにより、労働条件が不利益にならないよう一定の配慮は必要となるでしょう。

出向は業務命令とはいえ、従業員側に一方的な不利益が生じるケースや私生活上に大きな問題が生じる場合は注意が必要です。例えば、病気持ちの家族がいる、または要介護者が家にいて当人以外介護をすることができない状態だとわかったうえで、遠距離の会社に出向をさせる場合などです。

また、出向の多くはグループ企業や関連企業などになるケースが大半ですが、余剰人員の整理目的などで何ら関係性のない会社へ出向させる場合などは従業員が受ける影響が多いため、トラブルを招くこともありますので慎重に進める必要が出てきます。

退職・解雇、就業条件等について

先述したとおり「出向」は、出向元との間で雇用契約関係に基づく身分上の関係が継続していることから、退職、解雇、定年などの従業員についての身分得喪に関連する部分は「出向元」の諸規程が適用されます。

一方、出向者は出向先の指揮命令下で労務提供を行うことになるため、就業条件や服務規律、勤怠管理などは「出向先」の諸規程が適用されます。

その他、出向期間中における業務内容や役職、賃金の支払い方法や内部的な分担については、出向元と出向先の双方で個別に締結することが一般的であるため、出向というだけで一義的に決まるものではありません。

「転籍」とは何か?より詳しく解説

「転籍」「移籍出向」などと一般的に言われているもので、先述した「出向」と異なり従業員の雇用先である企業が従業員との労働契約関係を終了させて、新たな企業と従業員との間で労働契約を締結する形態を指します。

出向との大きな違いは、雇用関係を一度終了させるため、原則として労働者の同意が必要となり、企業側からの業務命令などとは異なるため、慎重に行う必要があります。

「転籍」は何らかの関係性がある企業間(親子関係、資本関係、グループ会社、買収先など)で行われる場合が多いですが、実質的には、在籍中の会社を退職し、別の会社に改めて入社するということですので労働条件等をどう扱うか決める必要が出てきます。

具体的な例としては、有給休暇や勤続年数に伴い発生する権利関係などがあげられます。

通常未使用分の有給休暇は退職に伴い消滅し、通算勤続期間もゼロにリセットされることとなり、その他永年勤続に合わせた休暇や福利厚生、その他退職金や継続勤務していれば得られていた権利なども含みます。また、賞与の支給時期によっては、双方で賞与が支給されないなどといったことも想定されるでしょう。

このように本来在籍していれば継続性が認められる労働条件や福利厚生も、転籍することにより失われる可能性があるため、一般的に「転籍」をする際は、転籍先で条件等を引継ぐか否か、また引き継がない場合は、他の手段や条件で補填するのかを検討しておく必要があります。

「出向」とは大きく考え方が異なる部分ですので、より適切な知識と運用を改めて認識しておきましょう。

転籍を前提としての採用可否

上記については「転籍」についての原則的なお話ではありますが、一部例外もあります。

大手の企業やグループ会社を複数有している会社では、採用募集時にグループ会社や関連企業に転籍する可能性を示唆することも当然出てきます。

その際、個別同意があること、また著しく不利益な条件になっていないという前提のもとであれば、就業規則などに基づき「転籍」を命じることも過去の判例から可能であるという見解も出ています。
(日立精機事件 千葉地裁 昭和56.5.25判決)

もちろん「転籍」のため、転籍先企業を明示していることや一定期間後の復帰が予定されているなどの条件はありますが、採用活動においても、事前の同意や進め方を間違えなければ有効なものとなりえるため、事後対応にならないよう準備はしておきましょう。

さいごに

「出向」と「転籍」の相違点や運用上注意すべき部分はある程度見えてきたと思います。

会社組織だけでなく経営状況、外的環境などは常に変動要素をはらんでおりますので、人員の補填やハイパフォーマーの扱いなども含めて採用活動や人員調整を考えておく必要があります。

「出向」「転籍」どちらもネガティブなものではなく、各社における人的交流、能力開発など使い方によっては、有益な部分も多くあると思いますので、グループ間での就業条件の差異確認や採用基準の統一化、また職種別採用などで柔軟に人材配置ができるようにしておくことも企業としての強みになるでしょう。

グローバル化が進んだ世の中において「出向」はもはや左遷のための片道切符ではなく、どこに行っても成果を出せる人材かを判断する手段の1つであり、いずれは出世をするための登竜門くらいになってくるかもしれません。

くれぐれも会社で不祥事を起こして、ドラマに出てくる大●田常務のように土下座をさせられ「出向」という名の島流しにされて「倍返しだ!」など会社を逆恨みしてネガティブな行動を起こさないよう日々の業務へは真摯に取り組んでおくことは、いまさら申し上げるまでもありませんね(汗)

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