試用期間ってどう決めるの!?社労士&人事が実践的な運用法を解説!

こんにちは、現役上場企業人事/社会保険労務士 助太刀屋のりょうたです。

皆さんの会社では新卒・中途を問わずに少なからず「人」の採用をされていると思います。

長い間募集要項を練り、求人を出して書類選考~面接という作業を繰り返し、無事に内定を出し、承諾してもらったときは「やっと決まった!」「これで効率的に業務がまわる!」「マネジメントできる人材が取れた!」など色々な想いが高ぶったことがあるはずです。

さて、その方々が入社した後、能力や適性の見極めというのは、どれくらいの期間でわかるものでしょうか?「3週間」「1ヶ月」「3ヶ月」「6ヶ月」など色々なご意見が出てくるとは思います。

過去採用した人を振り返って「すごく良い人材だった!」とか「全然パフォーマンスしてくれない!」などもあると思いますが、時には「この人もっと早くなんとかしておけばよかった・・・」などあるかもしれません。

人材を採用しても、その方があまりよくないと人事が感じる時、話題にあがるのが「試用期間」というものです。誰もが何となく聞いたことがあるとは思いますが、今回はその「試用期間」について、実務的な視点でどう運用していくのがいいのかなど、労務管理の視点で触れていきたいと思います。

この記事はこんな人にオススメです!
・試用期間の考え方や決め方をしっかりと整理したい
・試用期間の期間や賃金を決める際の重要ポイントが知りたい

試用期間とは?

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一般的に「試用期間」とは、長期雇用を前提にいわゆる正社員に対して適用されてきた制度で、その従業員の適格性を判断するため、入社後に一定期間設けられるものとなっており、法律で義務付けられているものではなく、あくまでも会社が独自に設定できる制度になります。

やはり人を採用するということは、入社してから本当に期待どおりのパフォーマンスができるのか、など気になる部分ですので、ほとんどの企業で「試用期間」を設けていると考えられます。

仮に企業の意にそぐわない場合は、後述する試用期間中の解雇なども検討としてあがってきます。

一方、労働者側では上記のとおり試用期間中の解雇などの懸念もあり、本採用に至らないという可能性もある不安定な地位となる現実があります。

なお、労働契約締結時に契約期間の定めについて有無を明示することは求められてはいる中で、この「試用期間」については法的に明示する義務はありません(労働基準法15条1項)が、労働者にとっては重要な条件の1つと考えられますので、何らかの形で事前に伝えておくことが賢明です。

試用期間中に解雇できる可能性は?(範囲と効力について)

先述しましたが、試用期間中に期待しているパフォーマンスが発揮されない、問題行動が見られるなどの理由がある場合は、試用期間中であっても解雇をできる可能性があります。

この「試用期間中の解雇」については「通常の解雇(=本採用の解雇)」よりは広く緩やかな基準で認められています。(図表参照)

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少し表現のニュアンスが難しいため、あくまでも数値的なイメージに置き換えると

「通常の解雇」=100

「試用期間中の解雇」=80~100

のようなものです。

「試用期間中の解雇」については、その名のとおり試用期間中だから大目に見てもらえる。と考えられる方もいるようですが、あくまでも通常(本採用後)の解雇と性質(効力)自体は何ら変わりないので合理的で客観的な理由なく、安易に実施することは不要なトラブルを招く可能性が大いにありますので、ご注意ください。

実務的には一方的に解雇を告げるよりは、きちんと事情説明をしたうえで、本人から自主的に退職届を書いてもらう方がスマートな対応になるでしょう。

なお、仮に解雇または自主退職による勧奨などをする場合は、本人への影響等も考えなるべく時間的な余裕を持って対応してあげることをお勧めいたします。

何の前触れもなく、試用期間最終日に呼び出して「今日で終わりです」「本採用できません」などと言うようなことは回避すべきです。

試用期間の長さはどのくらいが妥当か?

それでは、実際に試用期間を設定する場合、その対象期間についてはどの程度の長さとすべきか見ていきましょう。

「試用期間の長さ」については、法的に制限はないものの、先述した試用期間中の解雇や労働者の身分が本採用に至る前と比べるとやや不安定なことを鑑みると、あまり長い期間設定することは、実態にそぐわない(いわゆる公序良俗に反する)ものとして否定されるケースがあります。

一般的な企業における調査結果※によれば、新卒の試用期間の長さを「3ヶ月」としている例が66.1%と最多で、次いで「6ヶ月」が18.3%となっています。​​​​​

引用元:https://www.jil.go.jp/kokunai/reports/documents/report003.pdf

あまりに短い期間ですと、対象者の適格性を確認する前に試用期間自体が終了してしまう可能性があるため、現実的には「3ヶ月~6ヶ月」で設定しておくことが妥当な期間と言えると考えます。

試用期間の延長は可能か?

上記の試用期間の長さとあわせて「試用期間の延長」についても確認しておきたいと思います。

実務の中では組織改編や業務変更など何らかの事情により、当初の試用期間内では想定しているパフォーマンスを十分に見極められないケースもあります。

その場合「当初の試用期間を延長しても良いのだろうか?」となりますね。

結論、試用期間の延長は「一定の条件のもとで可能」です。

先述したとおり労働者にとっては不安定な地位が延長されるため当初の試用期間と合わせた長さなどには注意する必要があります。

延長が相当と認められる判断基準を過去の判例等から見ると下記のいずれも満たすことが必要です。

  1. 就業規則や労働契約で、延長の可能性や期間が明記されていること
  2. 延長に至る理由として下記のいずれかであること
    → 能力や適格性を調査したものの、当初の期間では採否判断が困難であり調査の継続が必要
    → 能力や適格性に問題があるため、さらに相当期間を設けることが必要

上記より延長はどのような場合でも許容されるものではなく、一定の合理性とルールが必要となります。

就業規則等に延長の規定がない場合には、一度見直しておくことも必要と考えます。

延長するにせよ、あまり長すぎると公序良俗に反するものとされるため、通常の試用期間とあわせても、「6ヶ月~9カ月」程度が許容される限界ラインになると考えられます。

試用期間中の賃金に差を設けて良いのか?

ここまで試用期間の意味や長さについて見てきましたが、試用期間中の賃金についても触れておきます。

一部の経験者採用やハイレイヤー(管理職など)を除き、一般的に試用期間中は、業務説明や教育訓練などに多くの時間を割き、正規労働者としての適格性や業務への適応性の有無などをチェックするフェーズですので、会社側としても入社時点で既存の労働者と同様のパフォーマンスや成果を期待しているものではないと考えられています。

そのため、試用期間中の者と本採用後の正規労働者との間において、賃金に差を設けることは不合理であるとは考えられていません。

一方で、あまりにも著しい賃金差を設けることは、応募者のモチベーションや応募者数などにも影響があるため、実際の運用では本採用後の賃金の80~95%くらいの設定でとどめておくことになると思います。

間違っても最低賃金を割るような金額設定をする、または他のアルバイトよりも時給単価が低くなるような運用は避けるべきでしょう。

なお、会社(使用者)は「賃金の決定、計算および支払方法、賃金締切および支払時期」については、就業規則等に定めるとともに、労働契約締結に際して書面にて明示する必要がありますので、賃金差を設ける場合は、入社後に知らなかった。などのトラブルにならないよう十分注意する必要があります。

念のため、補足しておきますが、労基法(第3条)では「社会的身分(国籍、信条など)」により差別的な扱いをしてはならないとされていますが、この「社会的身分」は「生来の身分」と捉えられていますので、「試用期間」については「社会的身分」と扱われることはなく、試用期間中と本採用後の賃金に差が生じていても法違反にはならないと解されています。

試用期間の実務的な運用方法について

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上記のとおり「試用期間」の定め方については企業ごとに異なるものですが、その他、実務的な運用としては、職種ごとに試用期間を定めることや期間の長さを変えることも可能です。

またアルバイトなどの有期契約者が数年勤続した後、社員登用になった場合は設けないなどもよく見られるものですので、画一的なもので運用するよりも、実務に沿った形で必要に応じて運用していくというスタンスが適切と思います。

就業規則にも試用期間について「短縮する場合がある」「設けない場合がある」などの文言を入れておくとより柔軟な対応ができるでしょう。

さいごに:他に採用担当者ができること

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今回は「試用期間」の位置づけ、設定方法や注意点について触れてきました。

あくまでも採用者を一定期間内で見極める1つの方法であることに間違いはないのですが、入社後の1on1面談を上司および人事主導で実施するなど、早い段階で適切なパフォーマンスがされているか、また会社で働くにあたっての不安や支障などが無いか確認する事も重要です。

もちろん、適切なパフォーマンスやマネジメントがされない時は厳しい対応をせざるを得ない事もありますが、中途採用者などは、不慣れな環境ですぐに適応できない方も中にはいますので、初期のフォローアップは会社として仕組み化しておくなど一定の対応方法は必要だと思います。

リスクヘッジの1つとしては、とるべき手段だとは思いますが、あまり就業規則やルールに固執せず、採用者一人ひとりが適切なパフォーマンスできるよう会社全体での運用方法を見直す機会の1つになれば幸いです。

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