社員が自己破産していたら?採用する前に身分証明書をもらおう

こんにちは、現役上場企業人事/社会保険労務士 助太刀屋のりょうたです。

突然ですが、皆様の周りに下記のような社員さんはいませんか?

  • 普段は地味な雰囲気でも、何故か毎晩高級店で飲み歩いている
  • サラリーマンでは買えないよう貴金属や時計を身に着けている
  • 持ち家以外に投資用でもない自分用のマンション(別邸)を持っている

このご時世ですから、株式投資や不動産投資、副業など所得を増やせる方法はいくらでもあるので、一見普通のサラリーマンでも役員並みに稼いでいる場合もあります。

それでも、やはり違和感を持ってしまう方もいると思います。ここで言う違和感とは、「もしかしたら不正行為をしているのではないか」や「業者からキックバックを受けているのではないか」などです。

不正行為によって稼がれる資産はいずれ破綻し、最悪、自己破産に陥ります。もし自社の社員が自己破産していた場合、個人のことだからと放置していいのでしょうか。

ということで、今回は「自己破産」と労務管理の関係について書いていきたいと思います。

この記事はこんな人にオススメです!
・自己破産をしている社員への対処について知りたい
・事前にリスクヘッジとしてできることがあれば知りたい

実際にあった不正行為(企業内の不祥事)

企業内での不祥事などはいつの時代にもありますが、まず下記の事例をご確認ください。

【ケース1】
繊維事業で糸の営業担当者Aが取引先に商品を納める際、本来より高い代金を請求して差額を横領する不正を繰り返し、総額2億5,000万円を着服し、懲戒解雇。
【ケース2】
経理課長Bは、2014年4月~2019年5月まで60回以上に渡って総額1億5,600万円を会社の預金口座から自分の口座に送金し、業務上横領の疑いで逮捕。なお、Bは新卒から勤続25年。
【ケース3】
保険営業職Cが2001年~2009年に、11名のお客様から終身保険、養老保険等の生命保険料を合計で約2 億1,000万円を着服。お客様に対し、全期前納保険料(10年)を会社の口座と偽り指定しC個人の口座に振り込ませ、会社には2年分の前納保険料のみを入金し、差額を着服。

不正や横領により懐に入れた金額を見て、「え?こんなに?」と思った方も多いと思います。また、会社での勤続年数も比較的長いな、と感じられるのではないでしょうか。

これらフィクションではなく、すべて実際に企業内で起きた不正行為です。

普段、隣で一緒に仕事をしている人が……まさか!?と思うケースですよね。でも、目に見えていない事って、これ以外にも世の中たくさんあるじゃないですか。

上記のケースでは、特にお金に困っていたというわけではなく、日々の業務の隙間でやっていた(できる状態になっていたとも言える)ものですが、仮に「自己破産」をしている方とかであれば、より実行可能性は高いと思いませんか?

毎年6万件以上もある「自己破産」とは?

「自己破産」とは、財産や収入が不足し、借金返済の見込みがないことなどを裁判所に認めてもらい、原則として、法律上借金の支払い義務が免除される手続です。

ここでは「自己破産」の深堀は敢えてせず、あくまでも労務管理上で関係のあるお話を中心に進めさせていただきますが、国内で毎年自己破産申立件数って、どのくらいか想像つきますでしょうか?

「個人の自己破産申立件数の推移」(裁判所 司法統計)によれば、ここ数年では60,000件~70,000件前後で推移しているようです。

ちなみに、近年で一番多かった年は2003年前後で年間200,000件を超えていました。

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※裁判所 司法統計をもとに筆者作成

​​​​​​​結構いると思われた方、え?そんなもの?と思われた方、色々かと思いますが、ここ最近のコロナ影響で増えたような気もします。

個人で商売をしていた方がコロナを機に売上が立たず、借金返済が滞り、結果自己破産。そして、再度社会復帰を試みて、会社の採用試験を受けにくる。ということは大いにあります。

また一方では既に働いている「隣の営業事務の女性が……」、「ベテランの経理部長が……」なども、無いとは言い切れません。

自己破産した方が悪いとか、トラブルを起こすとかいう意味ではありませんが、先ほどの事例のように、ちょっと大きなお金を扱わせることや、大口の契約を扱わせることなど心配になりませんか?

普段から多額のお金を触っている人が、仮に自己破産などをしていて、手持ちがカツカツの状態で、毎日多額のお金を見ていたら、通常なら脳内で「やっちゃえ!やっちゃえ!(*´Д`)」と悪魔の囁きがあっても、「ちょ、ちょ、まてよ!( ゚Д゚)」と、思い踏みとどまるもの。

ですが人間とは弱いもので、「ちょっとずつならバレないし、自分にも少しくらい権利はあるのだから」みたいになってしまうと恐ろしいですよね。

自己破産と雇用契約上の関係

少し堅いお話になりますが、自己破産と雇用契約について触れておきます。

まず、個人が裁判所に対して破産手続きをしても一定の資格制限等を除き、権利能力や行為能力には何ら影響はなく、会社との雇用契約が自動的に解約されることはありません。

また、自己破産はあくまでも私生活上のことであるため、原則業務とは関係がないとされており、その理由だけをもって不利益な扱い、懲戒処分や解雇等をすることはできないものとなっています。

ただし、警備員として職種限定で採用した者が自己破産により警備員としての就労継続が不可となった場合は、普通解雇も選択肢としてありえます。(事前に配置転換の打診をするなど一定の配慮は必要です)

また、多額の資金を扱う部門/職種(経理・財務・融資担当など)に従事している者についても、継続して業務をさせることは不適切ともいえるため、他部門への配置転換も1つになると考えられます。

ご注意いただきたいのは「自己破産をしたから配置転換が認められる」というものではなく、あくまでも「業務上の必要性や合理性がある場合に限る」というものです。

なお、従業員が自己破産をしたという事実についても、プライバシー保護の見地から無闇に公開せず、必要最低限の者だけで管理をしておくことが望ましいと考えます。

身分証明書で自己破産しているかが分かる

そうは言うものの、入社する人や既存社員について、「自己破産しているってわかるの?」、「確認方法ってあるの?」と思われると思います。

答えはYESです。

現状、自己破産をしているかどうかについては「身分証明書」というオフィシャルな書面で確認することができます。(下記図参照)

※運転免許証などの身分確認の意味合いのものとは別の公的書類になります

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はじめて耳にしたという方もいらっしゃると思いますので、下記に役所が出している解説をつけておきます。

禁治産・準禁治産、成年後見の有無、破産の通知の有無を証明するもので資格取得や就職の際に必要になることがあります。

禁治産とは、心神喪失の常況にある者を保護するための後見をつけることであり、禁治産者とは現在の成年被後見人のことで、準禁治産とは、心神耗弱者等意思能力が不十分な者や浪費者に対して、保佐人の同意なしに財産上の行為をすることを禁じたものであり、準禁治産者とは現在の被保佐人のことです。

お住まいの各市区町村HPで検索してみてください。

身分証明書・独身証明書(リンクは東京都武蔵野市の例)

横領や不正を防ぐ!リスク回避の採用オペレーション

既存社員が自己破産をしている場合の対応などは先に述べましたが、特定の職種や部門配属予定者については、内定を出す前(採用決定前)に「身分証明書」の提出を義務付けておき、合理的な理由に即した基準をもとに採用可否の判断をすれば問題ないこととなります。

なお、確認方法は口頭ではなく、多少手間になりますがオフィシャルな「身分証明書」にて確認されたほうが賢明です。

内定通知や入社後に自己破産していた事実だけをもって、内定取消や解雇などをすると思わぬトラブルを招く可能性もあるため、何ごとも事前に対応しておくということが肝要だと言えるでしょう。

このように、人事管理のオペレーションに組み込んで「採用~入社」を進めることで、後になってから「まさかあの人が……」「お金に困っていて◎億円横領されてしまった」なども防げると思いますし、企業としても一定のリスクなどを適切に把握することができます。

社内制度の運用について見直す際のポイント

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上記で雇用契約上の関係性に触れましたが、社内制度などの使用についても、場合によっては自己破産をしている者に対しては、制限をかけるなど検討する必要があると考えます。

代表的なものとして、社内の融資制度や貸付金制度がイメージしやすいと思います。

これらは企業が独自の施策に基づいて実施する福利厚生の1つとして考えられているため、利用者や資格などについても一定の制限をすること自体は問題がないものとなります。

今後社内で金銭に関係する制度導入を検討されている場合は、事前に制限をかけておくことが賢明です。

なお、既に導入されている場合は、一方的な条件の追加などは不利益変更に該当することもありえますので、事前説明や一定の経過措置等を組み入れることにより変更の合理性は担保しやすくなると考えます。

また、現時点で「身分証明書」の取得オペレーションをしていなくても、社内で重要なポジションへの昇進・昇格などの場合には最新の書面を提出させることも有効ですし、直近の状況を確認したうえで、然るべき役職に就けるということは最低限のリスクマネジメントにもなります。

さいごに

この「身分証明書」ですが、顧問弁護士、顧問社労士がついている企業でも、現場の人事がその重要性を理解し、入社時のオペレーションに組み入れられていることは、案外少ないものです。

会社の大事な事業資金や経費が、知らぬ間に不正等により横領、着服されていて、高額のブランド品や男女交際に充てられていた日には、当事者を解雇できたとしても、大切なお金を取り返すことは実質不可能となることが多いです。

入社時だけでなく、社内で起きる人事関連のトラブルは、管理オペレーションに隙があることが多いため、これを機に採用の管理体制や社内のコンプライアンスを見直してみてはいかがでしょうか。

なお、申し上げるまでもないですが、不正行為が起きない、起こせないように定期的なジョブローテーション、内部監査、オペレーションの見直しなどの仕組み作りは日々注意を払っておくことに越したことはないでしょう。

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