有給休暇の買取について知っていますか?現役社労士が先進的な有給休暇について解説します

こんにちは、現役上場企業人事/社会保険労務士 助太刀屋のりょうたです。

以前、2021年に「有給休暇(年次有給休暇)の取得について正しく運用できていますか?」という記事タイトルで有給休暇について実は知っていそうで知らないお話を書かせていただきました。

改めて記載いたしますが、働き方改革法案の成立に伴い2019年4月1日から、会社は従業員に対して年5日の年次有給休暇を取得させる義務が発生しておりますが、皆様の会社では適切に取得できていますでしょうか?

「そんなこと気にしなくても大丈夫でしょ!?」と思っている方も多いかもしれないですが、有給休暇の取得義務に違反した場合は、違反者1人に対して30万円以下の罰金が課せられることとなっています。仮にですが、違反者(取得できていない従業員)が100名いる場合は、最大で罰金3,000万円となるため、目先の数万円をケチって「有給休暇なんて取得させたくない!」「勤労は国民の義務だから働いて当然だ!」などと昭和っぽいことを言っていると、思わぬところで痛手を負うこともありますので、くれぐれもご注意くださいね。

実際、法施行間もない時期は、まだ取得状況がはっきりしていない会社が多いですが、既に2~3年経過している時期になってきておりますので、そろそろ厚労省も調査事項に入れ、見せしめとして取り締まってくる頃ではないかと感じています。

さて、今回はその有給休暇の消化にもかかわりがあり、また実務面ではトラブルになりやすく理解がされていない「有給休暇の買取」と少し先進的な有給休暇の活用法について触れていきたいと思います。

この記事はこんな人にオススメです!
・有給休暇の買取について詳しく知りたい人
・法定付与日数以上の有給休暇を付与している経営者

有給休暇の買取について

転職が決まり退職をする従業員が、業務状況などを無視して退職日前に残りの有給休暇をすべて消化したいと言い出して、会社や上司とトラブルになっているケースを実務ではよく見かけます。

これは最後までなるべく業務対応や引継ぎをしっかりやっておいてほしい、という会社側と有給休暇はそもそも権利なのだから、退職前にはすべて消化して当然だ、という従業員側がぶつかるポイントとなっているのでしょう。

こういうとき、会社が譲歩して残り分はすべて最終日に買い取るから最後まで働いてくれ、というケースがありますので「有給休暇の買取」についての是非を見ていきたいと思います。

まず、原則論ですが、有給休暇を買取ることは本来禁止されています。

これは、有給休暇の主旨が「法定休日以外に毎年一定日数の休暇を有給で保障する制度」であるため、会社が従業員に対して金銭を支払うことで代替できるものではないからです。

これは行政通達(昭30.11.30 基収4718)においても、有給の買取について予約をし、本来請求しえる有給休暇の日数を減じ、また請求された日数を与えないことは労働基準法に違反するとしています。

なお、仮に従業員から会社に対して有給休暇の買取を求められてもこの原則にもとづいて、拒否することができますし、法に触れるもの(違法)ではありません。

ごくまれに「有給休暇を使いきれなくても、会社に買い取らせれば大丈夫だ!」といっている従業員の方がいらっしゃいますが、根本的な部分を誤解している可能性がありますのでご注意ください。

有給休暇の買取ができる場合

有給休暇の買取は原則不可と記載しましたが、世の中の大半、原則があるときは大抵例外というものが存在します。多くの企業では運用上買取をされているケースもあると思いますので、買取ができる場合についても補足しておきます。

大きく区分すると有給休暇の買取ができる場合は下記の3パターンになります。

  • 法定付与日数を超えて付与されている超過日数を買い取るとき
  • 退職(または解雇等)により消滅した日数を買い取るとき
  • 時効により消滅した日数を買い取るとき

なお、各ケースについて、あくまでも買取することができるというものであり、会社が義務を負うというものではないことにご注意ください。

(1)法定付与日数を超えて付与されている超過日数を買い取るとき

会社によっては、福利厚生の一環で有給休暇を法定日数以上付与していることがあります。

先述したとおり、法定付与部分についての有給休暇の取得を妨げるため買取はできないこととなっていますが、法定付与日数を超えている部分については、買取の対象にできるものとなっております。

例えば、下表のように法定付与分より各基準日で「5日」多く付与している会社の場合は、その「5日」部分については買取できるというものです。

区分/勤続6ヶ月1年 6ヶ月2年 6ヶ月3年 6ヶ月4年 6ヶ月5年 6ヶ月6年 6ヶ月以上
法定付与10日11日12日14日16日18日20日
会社付与15日16日17日19日21日23日25日
買取可能分5日5日5日5日5日5日5日

(2)退職(または解雇等)により消滅した日数を買い取るとき

上記(1)のように法定付与分を超える日数がない場合でも、通常の退職や解雇等により消滅してしまう有給休暇については買取ることができます。

これは、労働者の退職や解雇により労働契約が消滅(雇用関係が終了)すれば、それにともない有給休暇の権利そのものも消滅してしまうからです。

これは行政通達でも「年次有給休暇の権利は、解雇予告期間中も含めて、退職・解雇の効力が発生するまでの間に行使しなければ消滅する」(昭23.4.26 基発651)となっています。

通常の退職にあたっては、退職者がよほど急ぎの転職などでない限り、残りの有給休暇日数を逆算して退職日などを決めるほうが多いと思いますが、解雇や退職勧奨などの場合には従業員が受ける不利益なども一定程度考慮し、会社側の交渉材料として消化できない分を買い取ることで穏便におさめる手段とするのも1つでしょう。

(3)時効により消滅した日数を買い取るとき

こちらはあまりお目にかかることは少ないとは思いますが、有給休暇には付与日より2年で消滅する時効というものがあります。結果的に、その2年間で取得することができずに消滅してしまった日数について買取りできるというものです。

個人的にはここまで手厚く対応をされている会社を見たことはありませんが、何らかの条件等を満たした場合のみに権利付与されるなど運用上はありえるかもしれません。

どちらにせよ、必要以上に買取ることは会社として労働力の享受がないままコストだけ発生するという見方もできるので、慎重に検討すべきことは申し上げるまでもないでしょう。

有給休暇の買取にあたって

有給休暇を買取ることができるケースについて説明をしてきましたが、どのケースを適用するにあたっても一定のルール等は定めておいたほうがよいでしょう。

有給休暇の買取りをする際の主な論点として想定されるべき事項は下記になります。

  • 対象者の範囲
  • 日数
  • 単価
  • 買取り日
  • 支払日

特に対象者をどこまで認めるのか、また日数と単価はどうするのかは明確に定めておかないと退職する際に思わぬコストとなって跳ね返ってくる場合があり、また通常の有給休暇取得時と買取単価が相違ない場合はかえって取得の抑制につながりかねないため、あくまでも通常取得を促進できるよう配慮する必要があると感じます。

消滅した有給休暇の活用法

先ほど有給休暇の買取りができるケース(3)で触れた内容について、先進的な側面にも少しだけ触れておきたいと思います。

消滅した有給休暇を買取ることは現実的にほとんどないと記載したように、見境なく買取りをすることはコストの面でもあまり有用とはいえませんが、活用法さえ間違えなければ会社にとって良い効果をもたらす可能性もあります。

その活用法とは失効(消滅)した年次有給休暇について一定期間積み立て(保管)をしておくことです。一部運用されている会社も存在していると思いますが、従業員の不慮の事態や特別な事案が発生したときに通常の有給休暇とあわせて特別に利用することができる制度で「失効有給制度」「失効年休制度」などと呼ばれています。

これはあくまでも不慮の事態やイベントなどが起きないと利用できるトリガーがかからないため、有給休暇買取りのようなコストとなるものではなく、長く働いていれば誰しもが直面するような事態(長期の病気休職、育児、介護など)や業務にかかわるイベント(ボランティア活動、国家試験など)に限り、利用することができるものです。

もちろん一定の勤続年数や対象範囲、明確な使用目的などは精査したうえで制度化する必要はありますが、頻繫に起こりえるものではないため、万が一のときの保障というような形では十分検討可能なものだと思います。

本来は時効消滅せずに、有給休暇を取り切れるような働き方が望ましいのは申し上げるまでもありません。しかし、現実的に有給休暇を取得できていない方には、何らかの負荷がかかっていることなども想定されますので、失効年休制度のような形で還元できる仕組みがあると一定のバランスが担保できるのではないでしょうか。

さいごに

今回は、実務面においても頻出する有給休暇についてより深堀をして書かせていただきました。

以前に比べて世の中全体の情報取得も進み、有給休暇は一定の要件さえ満たしてれば、当たり前に取得できるものという認識が浸透していると思います。

有給休暇の取得義務化も進んでいるため、買取りの議論は以前ほど出てこなくなっている可能性はありますが、勤続期間が長い人(有給休暇の残日数が多い人)などには必ず絡んでくる話でもあります。

検討や施策が後手になる前に、会社としてのスタンスをハッキリさせ、先進的な運用を積極的に取り入れるなどをしていけば、働きやすさや福利厚生等の面で他社と差別化をする1つの方法になる可能性もあります。 普通に1日消化すればただの有給休暇ですが、会社としての意思を強く出すような使い方によっては、非常によい効果も期待できますので、変わりゆく世の中でどのように労働者の権利を活用していくかも会社が考える1つのテーマになってきているように感じます。

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