応募者の情報管理、気をつけていますか?5つの具体例を用いて社労士が解説します

こんにちは、現役上場企業人事/社会保険労務士 助太刀屋のりょうたです。

昨今では様々な労働法令の改正が進み、同一労働同一賃金をはじめ、有給休暇の取得義務化や育児介護休業法の改正など人事に携わっている方は、普段業務をする上で労働者の権利などが以前よりも日に日に強く保護されていると感じることも増えてきているのではないでしょうか。

特に日本の労働法下においては、一度雇用関係が生じてしまうと、ちょっとしたトラブルを起こす者やパフォーマンスが物足りない者であっても、なかなか雇用契約の解消(解雇)をすることができない現実です。

どの企業もドクターXの大門未知子並みに「採用活動は絶対に失敗できないので!」となり、知らないうちに担当者が候補者について色々と調査をし、また面接時に好き勝手ヒアリングをしてしまうこともあります。

例えば・・・

  • 前職から離職期間がかなりありますが、メンタルヘルスか何かで長期休職していたのですか?
  • ご両親の職業はどういったものでしょうか?
  • 普段どういう思想をお持ちですか?
  • 今、戸建てにお住まいのようですが、残りの住宅ローンの残高と年数はどれくらいですか?
  • 現在◎◎歳ということですが、結婚はされずに仕事一筋という理解でよいですか?

思わず、色々確認しておきたいという理由からこのような質問を面接の場で聞いてはいないでしょうか。

事前調査等の実施については実務上、十分理解できるのですが、過度なヒアリングや調査により求職者と労務トラブルになるケースも増えております。

そういった事情を鑑み、改めて情報管理体制などを見直す機会になればと思い、今回は採用時の情報管理について触れていきたいと思います。

この記事はこんな人にオススメです!
・採用活動時のリスクヘッジがしたい
・応募者の情報管理について正しく理解したい

内定前の健康診断結果

いまだ採用が決定していない応募者に対して、選考資料収集のために健康診断を実施することが、許容されるかどうかという点から見て行きたいと思います。

行政の解釈としては、応募者の適性・能力などに基づいた採否決定ではなく就職差別につながるおそれがあるとして、慎重な対応を求めているものの、過去の最高裁判例においては、会社(使用者)に広く採用の自由を認めています。

具体的には「企業が労働者の採否決定にあたり、労働者の思想、信条を調査し、これに関連する事項についての申告を求めることも、法律上禁止された違法行為とすべき理由はない」と判示しています。
(三菱樹脂事件 最高裁大法廷 昭48.12.12判決)

最近の事例や判決などを見る中でも、原則的には、社会通念上許容される調査である限りは調査の自由が、広く認められるとの立場をとっていることから、一定の内容や範囲内であれば概ね問題ないというべきでしょう。

念のため、補足しておくと、会社(使用者)は、常時使用する労働者を雇用するときは、健康診断を実施しなければならないとされています。
(安衛法66条1項および安衛則43条)

これは、いわゆる「雇い入れ時の健康診断」(下表参照)というものであり、入社後に実施すべきこととなっております。

内定前に収集するのであれば、この辺りの内容までに留めておくのが妥当でしょう。

なお、受診から1ヶ月以内の場合には、その結果をもって「雇い入れ時の健康診断」に代えること(省略)ができるので実務運用上においても、1つ抑えておくべきポイントだと思います。

取得に注意すべき健康情報

先述したとおり、会社(使用者)には、一定の健康情報であれば、事前に収集することについてはある程度許容されると記載いたしました。

その一方で、昨今では労働者の個人情報保護の関係で、不用意に情報を取得すべきでないという内容もありますので注意が必要です。

この主たる根拠としては「労働者の募集を行う者(会社)は、募集に応じて労働者になろうとする者(応募者)の個人情報を収集し、保管し、または使用するにあたっては、その業務の目的に達成に必要な範囲内で収集し、保管し、使用しなければならない」とされています。
(職安法5条の4第1項)

業務上の必要性が無いようなものや、HIV検査、肝炎検査などについては、職場において感染したり、蔓延したりする可能性が低いため、取得すべきではないという考えになります。

過去の裁判例においても、本人の同意なくB型肝炎ウイルスの血液検査を実施したことについては、本人のプライバシー権の侵害になり違法という判断がされていることから、仮に何らかの理由により実施をする場合は、適切にその取得の必要性や業務との関連性について説明をした後、同意を取ってから行うこととなるでしょう。

業務遂行に影響する健康情報

上記のHIV検査や肝炎検査とは異なる性質で、業務遂行上で確認しておくべきものもあると思います。

昨今、ニュースなどで報じられている「てんかん」や「心臓発作」などの持病の有無については、一定の範囲内で確認などはしておくべき事項と考えます。

事務系の職種はさておき、営業車両を多く使用するような職種などについては、業務遂行中の発作などにより、甚大な事故を起こすことも想定されるため、事前に業務説明や会社としての安全管理に基づき、必要範囲内で同意書などを取得しておくことが賢明です。

仮に入社後、同意書の内容に虚偽がある場合などは、持病の影響がない部門への配置転換や異動、場合によっては、懲戒処分などもありえる内容で誓約(確認)をとっておくべきでしょう。

身上情報(本籍、出身地、宗教、思想など) 

採用面接などの際に、人事担当者がついつい会話の中で聞いてしまいがちな応募者の身上や家庭環境などについても注意が必要です。

厚生労働省からも公正な採用を実現するためには、本人の持つ能力、適性以外の事項を採用条件にしないようにすることとお達しが出ています。

先述した最高裁判決との絡みでどこまでが許容されるのかは、一部判然としない部分が残りますが、下記に掲げるような事項に関する質問は、特段の理由がない限りは回避しておいたほうがよいと思われます。

【採用選考にあたって避けるべき主な確認事項】

  1. 本籍・出生地
  2. 家族(職業、学歴、地位、資産、収入など)
  3. 住宅状況(持ち家、借り家、間取り、ローン状況など)
  4. 生活環境(生い立ちなど)
  5. 宗教(信教)
  6. 支持政党
  7. 思想
  8. 人生観、尊敬者
  9. 購読新聞・愛読書

リファレンスチェック

経営者の方および採用に携わる方にとって、いい人材を確保することは事業運営上で非常に大切なこととだと思います。

欧米では転職の際に「リファレンスチェック」と呼ばれる身元調査が行われることが一般的です。

日本では外資系企業の転職などを中心に実施されてきましたが、一昔前に比べて転職市場が活性化しているため、外資系以外の企業でも「リファレンスチェック」を導入するケースが増えているようです。

「リファレンスチェック」という名称の他、実務ではバックグラウンド調査、前職調査、経歴調査などと言われるケースもあり、今では会社に代わって、外部企業が調査を行うケースやHRテックなどを活用して求職者が指定したリファラー(紹介者)に質問事項を自動で送る方法などもあります。

学歴詐称や在籍期間の詐称(過大・過少)はさることながら、在籍企業での経歴の詐称なども珍しいものではありません。「役員」と記載していても登記されていないケースや「執行役員」「部長」と記載していても実態は業務委託であるケースなどもあるので注意が必要です。

その他、本人が担当していると記載していた業務について実はやっておらず、上司や同僚の仕事を自分が担当していたかのように面接で話したり、社内表彰歴が虚偽だったりというケースは意外と多いものです。

リファレンスチェックを行うことで、エントリーシートや面接だけでは見抜くことが難しい経歴のチェックを行うことができ、事前に人材の適正性を確認し、採用のミスマッチを減らすこともありますが、このリファレンスチェックの実施についても、採用活動を進める上では個人情報が密接に絡むため注意が必要です。

リファレンスチェックのトラブル

このリファレンスチェックに関連して起こるトラブルについては、主に2つあげられます。

1つ目は、前職や現職に対して調査やヒアリングを実施する前に会社として適切な形で第3者(会社と応募者以外)からの個人情報取得について説明や同意書の回収などをしていないケースです。

よく実務であるものとしては、いきなり現職に知らない業者から電話が来て人事担当が応募者について、根掘り葉掘り聞かれた、また応募者本人がその電話を取ったことにより、裏で調査をしている事実が発覚したなどです。

特に現職への調査は、本人が転職活動をしている事実として伝わりかねないので注意が必要です。応募者は現在選考中の会社から本人の同意なしに色々調査をされていると思い、個人情報保護に抵触しているのではないか。などトラブルに発展する可能性があります。

面接段階で会社側から適切に説明をしてもなお、第3者に対するヒアリングや調査を拒否し、また前職の上司や同僚の紹介が出来ないなど言い張る場合には、何らかの業務または人的トラブルや不正などにかかわっている事も考えられますので、その際には面接を通じて採用をしないという判断をすれば問題ないでしょう。

2つ目は、面接の過程で本人から適切に事前同意などを得ているにも関わらず、会社が内定を通知した後にリファレンスチェックを実施し、会社にとって良くない情報があがってきたため、突然内定を取り消してトラブルになるケースです。

これは内定の性質として「一定の条件付きで労働契約が成立」するため、入社までの間に会社が知ることができない事実がある場合には、一定の合理的な理由がある前提で、その内定を取消すことも可能ですが、少し調査をすればわかることを把握しないまま内定を出して、その後に内定取消ということは、会社側に責任(過失)がある、と判断される場合があります。

せっかく事前の同意を得ているにもかかわらず、リファレンスチェックを実施するタイミングがズレ込み、かえってトラブルを招いてしまうことは非常に残念です。

改めて「内定」の効力を理解していただくとともに、リファレンスチェックを実施する場合には、必ず本人からの事前同意を取り、また内定を出す前にリファレンスチェックを実施しておくことが実務上は有用となります。

さいごに

色々な具体的事例を書いてきましたが、どれも個人情報に密接するものであることに変わりません。

採用するポジションや給与などによっても、より厳密な調査や情報取得が必要になることは申し上げるまでもありませんが、踏み込んで情報取得をする場合には、事前の同意や適切な説明が必要となってきます。

裏を返せば、よほどの事案でない限り業務上必要であるなどの理由をもとに、本人から適切に同意を得ていればある程度の事は聞いても構わないという結論付けもできます。

この部分をきちんと理解しないまま採用活動を行い、何かあってから騒ぐのではなく、会社や人事が正しい情報に基づき、また採用手順を守ることで不要なトラブルリスクは大幅に軽減されます。

今回の内容をもとに、一度社内の採用オペレーションの見直しの一助になれば幸いです。

▼労務に関するご相談もインビジョンにお任せください!

関連記事

最近の記事

  1. ピープルアナリティクスのカギは「データ」にあり。導入メリットから具体的な活用法まで徹底解説

  2. 朝礼、夕礼の盛り上げ方とは?!盛り上がらない原因と解決策をご紹介

  3. 入社後すぐに社員が休職したら⁈私傷病休職制度や傷病手当金を確認しよう!

お役立ち資料

  1. HRハッカーお客様の声事例集

  2. 無料で採用に使えるツール30選

  3. 桃太郎から学ぶ日本一わかりやすい採用マーケティング